年始のエキストラ

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4時に起きて、4時半に家を出て、新宿の集合場所へ。朝6時の新宿は、エキストラを乗せて走るためのロケバスが複数台停まっている。ここで集合して、各ロケ地へと移動するのだ。私も、自分のバスを見つけて乗り込む。

この日は、栃木県某所。群衆を監視するSP役。演説の舞台に背を向けて、じっと立ったまま周囲を警戒する演技。とにかく寒い。段取りの時は防寒用のダウンジャケットを着ているが、テストと本番はジャケットを脱ぐ。風が冷たくて痛い。まるで、冷水のプールに飛び込むかのような勇気がいる。えい、や!と、防寒着を脱ぎ、役に入り込む。

では、間も無くスタートです。みなさん体制をお願いします。カメラ回して。本番よーい、スタート!

待ち時間はずっと寒さで細かく体が震えているが、本番は不思議と震えが止まる。端役のエキストラではあるが、良い作品をみんなで作ろうという気分になる。この心理状況、面白いな。

はいカット!
カットー!カットー!

監督の合図で、他のスタッフさんもカットの合図を復唱する。今回の現場は屋外で、広い。

では、もう一度撮影します。次は、タイミングをもう少し早めで。全員が一度に動くのではなく、真ん中から徐々に動き始める感じでお願いします。

説明を聞きながら、体がまた寒さで震え出す。スーツの両ポケットに一つずつ携帯用カイロ。靴の中にも、靴下に貼るタイプのカイロを入れているが、全身を温めるにはまったく足りない。真冬のカナダで、マイナス30度の中、オーロラを観たことがあるのだが、その時よりも体感温度はもっと寒い。あの時は、全身分厚い防寒着に包まれていたから。

これは、もしかしたら眠ったら凍死するやつか?

絶望的な寒さに全身が震えていても、本番になるとピタッと震えが止まる。禅の習得者みたく、「寒さを受け入れよう」みたいな感覚になるので。その代わり、カットの声がかかると、芯から体が冷え切っている。OKが出るまでしばらくジャケットは着れない。

チェックします。

ドキドキしながら待つ。

OKです!

エキストラや俳優の中から、拍手がわきおこる。我々エキストラたちがジャケットを着ている間に、撮影クルーはカメラを移動して、次のシーンの準備をする。そしてまた、段取り、テスト、本番を繰り返す。

朝10時から、ランチ休暇を挟んで、暗くなるまで。ランチ以外は、撮影現場には椅子もないので、ずっと立ちっぱなし。撮影のスタッフさんも、ずっと動き回ってる。

そして私は、終始SPになりきって、全身凍えながらその場に立ち尽くす。体は辛いけど、実は楽しい。撮影現場にはいられること自体が、喜びである。もうちょっと長くいたいと思ったが、18時頃にあっけなく撮影終了。また、バスに乗って2時間以上かけて新宿に戻り、解散。これで、この日のエキストラは終了。丸一日の撮影だったが、オンエアはたぶん数分。その中で、私が写っているシーンがあるかどうか。

エキストラなので、自分が目立とうという気は全くない。いや、せっかくだからちょっとは映たいとは思うけど。でも、エキストラの中にありがちな、なにがなんでも映像の中に顔を映して爪痕を残してやるみたいな野望はないし、たまにそういうエキストラがいると「やりにくいな」と思う。

私は、撮影現場にいられることが幸せ。作品を作り上げるプロセスを見ながら、それに貢献できるというのが何よりも嬉しい。ちっぽけな役ではあるけど、みんなで作るというのが楽しいのだ。昔から映画やテレビが好きだったし、ロサンゼルスに住んでいたのも「いつかは映画に出てみたい」という気持ちがどこかにあったため。会社員になって、その夢は遠のいたように思えたけど、「週末のエキストラ」という道を見つけて、活動するようになって3年目。念願だった、映画への出演も叶った。けど、背景の通行人役とか、大勢の刑事役の1人など、顔が見分けられないくらいのシーンが多い。セリフをもらう役もやってみたいなと思う。海外の作品にも出演してみたい。

まだまだ、これからもエキストラとして、もしくはもう少しステップアップしつつ、みんなで作品をつくる現場に関わりたいと思います。


by t0maki | 2025-01-11 13:02 | Comments(0)