光る鯨を見終わった帰り道

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パラレルワールドって、現実世界では体感することができないものだからこそ、最近物語のフィクションの世界でよく扱われるのだと思う。映画とか小説の世界で、非日常を描くために使われる。

この『光る鯨』は、パラレルワールドの世界観を描いてはいるけど、実はそれはメタファーで、その「what if」の世界を描きつつ、もっと叙情的な伝え方で世界を描いていると思う。音楽に例えるなら、歌詞を噛み砕いて理解するよりも、その音楽そのもののリズムや音を味わうべきというか。設定がファンタジーなのに、描き方はとことんリアルなのである。そこが上手いなと思った。下手にドラマチックすぎず、淡々とひとつ隣の世界をリアルに描いている。

(以下、多少ネタバレあり)

その中で、月や鯨が現れる。天使が現れる時、均衡が破られる。ストーリーテラー的な、唯一物語のナラティブを理解したゲームマスター(トリックスター)的な存在の女子高生。この子が出る時だけ、ガラッと演出が変わるのも面白い。光に包まれたり、照明がチカチカしたり。それも込みで楽しめるか、あるいはそこに違和感を感じるかで映画の感想が変わるかもしれない。そもそも、パラレルワールドについて来れない人は、この映画には合わないのかもしれないが。

僕は、このパラレルワールドをメタファーとして、むしろ現実のありのままのリネアワールドの(そんな言葉が存在するは分からないが)、それぞれの時間の移り変わりのようなものを感じた。若い時のことを、歳をとってから思い返して、そこに「あの時もし」の物語を想像する。例えば、老人になって記憶が混乱してきた時に、見えてる景色はこういう感じなんじゃないだろうかと。

面白い作品だった。舞台挨拶で、少しだけ撮影のメイキング的な話も聞けて良かった。

by t0maki | 2023-12-09 20:04 | Comments(0)