「ヨットのグレー」を買いに行った話
2020年 04月 25日
プリンターのインクが無くなった。食べ物は無くても何日かはもつけど、プリンターのインクは無くなったらダメだ。一色でも無くなってしまうと、プリンターが使えなくなる。困った困った。予備のインクをあさってみるが、この色はストックがない。
嫁と娘が使い切って、そのままにしてたらしい。「早く言ってよー」と、松重口調でグチを漏らしつつ、近所のスーパーへ。
しかし残念ながら、そろそろ僕のプリンターも旧機種になってきたので、以前在庫のあったスーパーにももう無かった。さて、どうしようか。。。
スマホを取り出し、ネットショップで探す。
僕が欲しいのは1色だけ。
「ヨットのグレー」
口に出して言ってみて。
「ヨットのグレー」
なんか、秘密の合言葉みたいじゃない?
ジャングルの奥地の川の名前を冠したオンラインモールでは、どうやらこの「ヨットのグレー」を買うには、3個セットしかないらしい。ようやく見つけた単色は、しかし2個セットから。しかも、2,000円以上お買い上げの方に限り。
仕方ないので、背に腹変えられないので、とにかく急いで欲しいので、1色だけ買うのは諦めて全色入りの6色セットを購入。
しかーし、すぐには届かない。
今すぐ、プリンターを使いたいのに。
やっぱり、すぐにインクが欲しいので、秋葉原へ。電車に乗るのは、4月11日以来、2週間ぶり。3月に入ってからずっとリモートワークなので、最近ほとんど外出せず、通勤時には全く電車に乗ってない。
ヨドバシカメラ マルチメディアAkibaへ。
地下鉄から出てすぐの入り口から入ろうとしたら、止められた。
「ここからは入れません。あちらの角を曲がった入り口へどうぞ」
なにやら、厳戒態勢になってる。しばらくシャバの世界を訪れてなかったから、物々しさに面食らう。
指示された入り口に向かうと、入場のために軽い聞き取り尋問がある。今すぐ必要なものしか買えないらしい。
「受け取りですか?何を買いに来ましたか」入り口で、店員さんが聞いてくる。
「あ、の。インクを。プリンターのインクを買いに」と、モゴモゴとマスクの奥から緊張して僕は答える。
「わかりました、ではこちらへ」と、ようやく店内に誘導される。
「プリンターのインク、1名様です!」
中に入ると、お客はほとんどいない。必要のない売り場には行けないように、ところどころシャッターが降りてる。まるで、軍事施設のような物々しさ。
警備員の人に見守られつつ、自動で液体が噴霧される消毒液の機械に手をかざす。アルコールを手にすり込みながら、店内へ。
「二階です」と、導かれるまま、進む。
週末のこの時間、いつもは人がごった返してるフロアが、ほぼ無人。
フロアのスタッフが、マンツーマンで応対してくれる。
「プリンタのインクですね?」
「はい」
「型番はご存知ですか?」
「えーと、ヨットのグレーで」
ここで例の、秘密の合言葉。
それを聞くと、店員さんがテキパキと売り場に誘導してくれて、ピンポイントで商品を出してくれた。
「純正でよろしいですか?」
「はい、それで」
「では、お会計はこちらになります」
支払いを済ませると、寄り道せずに出口へ。また警備員に見守られつつ、手指を消毒する。
ヨドバシカメラに来て、こんなに短い滞在時間で買い物を済ませられるとは。たぶん、なにかの新記録に違いない。
外に出て、少し秋葉原の街を見て歩く。まるで、過疎化した地域のシャッター通り商店街のような雰囲気。ゾンビ映画などで見たことのある風景が、目の前に広がってる。
ブルっと震えて、僕は家路を急いだ。
by t0maki
| 2020-04-25 10:55
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