『地球の歩き方 ロサンゼルス』1998年版
2019年 10月 14日

友達が遊びに来た時に、地元を紹介できるようにね。自分でも観光っぽいことをしてみたかったけど、社会人一年目で慣れない写真の仕事なんかをしているせいで、ほとんどその余裕はなかった。

ある日、幼馴染がロサンゼルスの僕の家に遊びに来ることになった。小さい頃に一緒に遊んでいた女の子。15年くらい会ってなかったけど、年賀状や手紙のやりとりでずっと繋がってた。「ロサンゼルスに行きたい!」と言うので、「いいよ、来れば!」と答えた。そして、彼女はやって来た。

空港に迎えにいって、顔が分かるか不安だったけど、案外すぐに見つかった。かわいらしい笑顔に、ちょっと心がほころんだ。
* * *
大学でアートを学んで、さて卒業するとなった時、アメリカでの就職は難しいことを知った。そもそも、アート学部の学生がアプライできる仕事がない。大学の就職斡旋の窓口に行っても、「アート学部です」って伝えただけで「君に適した仕事は無いよ」と即答された。仕方がないので、大学でお世話になったアート学部の教授にアポイントをとって、ひとりひとりに進路の相談をしに行ったが、みんな大学院への進学をすすめてくるばかり。残念ながら、親の仕送りは大学卒業までが限界だった。フルで奨学金をとれたとしても、日本に帰る金がなくなってしまうから、大学院は無理だった。
卒業後は、日本に帰って就職活動をする予定だったのだが、ある出来事があったため、アメリカに残ってもう少し頑張ってみることにした。卒業六週間前に、一緒に卒業する予定だった同級生が交通事故で亡くなった。その友人の分も、アメリカでもう少し頑張ってみよう、と。
それから、就労ビザを申請して、ビザを待っている間も就職活動を続けたけど、地元のネバダではもう仕事は見つからず、アメリカ西海岸を仕事を探しながら放浪することにした。最初はサンディエゴから。そこから北に移動して、ロサンゼルスへ。基本は、安宿に泊まりつつ。車に寝泊まりすることもあった。いわゆる、ホームレスである。まだ路上生活者ではなかったが、手元の金が無くなり次第そうなるのは時間の問題だった。
ようやく、宝石デザイン会社で写真の仕事が手に入った時、銀行には200ドルしか残ってなかった。もちろん、日本に帰る飛行機代にも足りない。本当に、ギリギリだった。
* * *
幼馴染の彼女と出会って、久しぶりに人間らしい心持ちがした。一緒に食事して、会話をして、笑って。人間って、こんなにも出会ってすぐに打ち解けるもんなんだな、って。それまでの不安と悩みがウソのように。彼女と一緒にいるだけで、なんだか幸せだった。
地球の歩き方を片手に、ロサンゼルスを一緒に観光した。そのガイドブックには、とても回りきれないくらいの観光スポットがたくさん載っている。ページの端を折って、僕らはその場所にでかけた。アウトレットモールで、二人で一緒に話しながら歩くだけなのに、なんでこんなに温かい気持ちになれるのか、不思議だった。ロボットが、初めて人間の心を手に入れたような。まぁ、実際、そんな感じだったよ。
* * *
先日、久しぶりに実家に帰った時、この地球の歩き方を本棚で見つけた。懐かしくなって、持って帰ってきた。
しみじみ、読み返してみる。当時の思い出が徐々によみがえってくる。
彼女が今、何をしているのか僕はしらない。ただ、このガイドブックと、端が折られたページの旅の思い出があるだけ。
by t0maki
| 2019-10-14 00:41
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