早すぎたセミ
2019年 07月 17日

「ねぇ、キミ。そんなとこいると踏み潰されるよ」と僕がいうと、
「なんちゃーないね。好きにしてくれい」と、毒づくセミ。
そう言ってるわりには、僕が足を差し出すとセミは必死になって掴んできた。
歩道の脇にある、ゴミ集積場の小さな囲いにセミをおろした。
「ちょっと早いんじゃ……」と僕が言いかけると、
「分かってるって」とセミが答える。
「まだ夏ってほどでも……」
「だから、分かってるって」
「セミって普通さ……」
「他のセミがまだ出てきてないのは知ってるって。早すぎたんだって。まだセミの声なんて聞こえやしない!」
僕とセミは、そのまましばらく無言のまま、その場にいた。
「んで、どうすんの?これから」と僕が訊くと、
「まぁ、このまま時代が追いつくのを待つさ」と、セミは笑った。
最近の研究では、セミは意外と長生きするらしい。
「じゃ」と言って、僕はセミと別れた。
by t0maki
| 2019-07-17 11:05
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