記憶の淵

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カバンの中に折り畳み傘の袋だけあって、中身の傘がない。
「あれ?」と思ったけど、「家にあるのかな」と思ってとりあえずそのままに。

翌日の朝、カバンの中にまた傘の抜け殻があるのを見て、傘のありそうな玄関脇を探してみたけど、見つからない。

「もしかして」と思い、昨日訪れた場所を辿ってみたら、そこにあった。

どうやら、そこに忘れていったことを忘れていたらしい。記憶の塊がごっそり欠落していたようだ。1日前に体験したことがまったく思い出せないって、コワイね。

多分ね、年を取って行くと脳の機能が低下して、こういうことがよく起こるようになるのだと思うよ。記憶と記憶のリンクが切れて、無意識の奥の方に紛れ込んでってしまう。その淵から漆黒の空間を覗き込んで、僕はため息をつくだろう。
「ま、仕方ない」

そもそも、僕という存在がこの世から消えたら、すべての記憶もそこで全部すっきりと無くなってしまうのだから。

だからこそ今僕は、ここでその記憶をすくい取り、文字にして記録しているのだ。


by t0maki | 2018-03-23 10:19 | 乱文・雑文 | Comments(0)