ALSとデッサンと #ENDALS_STILL

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久しぶりに人物画を描きました。アートを専攻していた学生時代以来かもしれない。デッサンモデルの人って、タイヘンだと思う。だって、モデルをしている間は同じポーズをずっと続けていなければならないから。同じポーズを、ずっと……。

酒井ひとみさんは、歯科衛生士として働きながら二人の子育てに奮闘するごく普通の主婦。健康で、大きな病気をしたこともなく、出産以外では病院に入院したこともありませんでした。家族全員がインフルエンザで倒れてしまっても、なぜか酒井さんだけはピンピンしていたという逸話の持ち主。

その酒井さんがALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症したのは、2007年のこと。身体の異変に気づき、地元の病院に行ったもののすぐには病名が分からず、ようやく東京の大学病院でALSと診断された時には半年以上が経過していました。ALSという病気の認知度が上がった現在なら、もしかしたら地方の病院でももう少し早く診断されるのかもしれない。決定的な治療法のない現在では、早めに病名が確定されるのが良いことなのかどうかは分かりませんが。

ALSとは、全身の筋肉が徐々に動かなくなってしまう病気。日本には9千2百人以上、世界には40万人の患者がいると言われています。意識はしっかりしているのに、徐々に身体が動かなくなっていくということ。喋ることができなくなり、機械を装着しなければ自分で呼吸することもできず、けれど意識や五感は正常なまま。

「END ALS」は、まだ治療法の確立されていないALSという疾患について、みんなで理解を深め、一緒に戦うための活動。今回僕は、このEND ALSが企画した「STILL LIFE」というプロジェクトに参加して、ALS闘病中の酒井ひとみさんがデッサンしてきました。人物画のデッサンにも関わらず、静物画を表わす「STILL LIFE」という言葉が使われていることに、この疾患の辛さや残酷さが表現されています。身体を動かそうにも、自分の意思で動かすことができない。同じポーズをずっと続けるしかない。そんな状態でのデッサンモデル。
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駅ビルの地下にある商用スペースでのイベントなので、普通に通行人が後ろを通っていきます。2時間という限られた時間で、ひたすら集中して絵を描こうとすると、後ろからなんとも間延びした会話が聞こえてきました。「なんかのイベント?」「絵を描いてるね」「ALSってアレか、氷水かぶるやつ」「そういえば、オレも知り合いもさぁ……」

普通の会話なんだけど、普通の会話だからこそ、何かこう腹の中がゾワゾワするような、その発言者を思いっきり睨み付けたい衝動にかられました。ALSについて、もっとみんなに正しく知ってもらわなければ。

酒井さんは、人気コミック『宇宙兄弟』の公式サイトに、ご自分の体験をコラムとして連載しています。

私の名前は酒井ひとみです ─ALSと生きる─ | 『宇宙兄弟』公式サイト

僕があの場所でデッサンをすることで、ALSの現状について何か変わるかどうかは分からない。少なくとも、僕自身がALSの効果的な治療薬を開発することはなさそうだ。でも、目の前の出来事から目をそらさず、自分が何をできるかということを考え、実行することはできる。僕にとっては、たまたまそれがこの企画への参加であり、酒井さんをデッサンするっていうことでした。

みんながそれぞれ、できることから始めれば良いと思う。

酒井さんを見つめながら、デッサンを描きつつ、そんなことを考えていました。


END ALS

by t0maki | 2017-01-31 18:15 | イベント・スポット | Comments(0)