『ドナウよ、静かに流れよ』読了でちょっともどかしい気分。真実を知りたいよね
2017年 02月 07日
19歳の女子留学生と33歳の「自称指揮者」がドナウ川で心中したとされるニュースを追いかけた、大崎善生さんのルポルタージュ作品『ドナウよ、静かに流れよ』を読み終えた。
実は、前にもこの本を読んだことがあるんですけど、改めてKindleで買い直して再読。自分の心の琴線に触れたニュース記事を作家が独自で調査し、深掘りしていき、本にまとめるというところに興味があったので。
この本についてのレビューは、賛否両論みたいですね。共感して感動した人もいる一方で、否定的な意見も多く、それは多分、読み手の完成とか経験、生い立ちとかにもよるんだろうな、と思いました。僕は、好きです。このルポ。
本書は、あくまで著者である大崎さんのフィルターを通して書かれた作品である。この事件について興味を抱いたきっかけや、追いかけるようになった経緯などがていねいに詳しく書かれている。小説を書かれる人らしい、文章のリズムとか、情景描写とか、すごく心に響いてくる。
ここから先はネタバレありなので、気になる人は本を読んでから戻ってきてください。
著者の大崎さんが19歳の渡辺日実さんについて調べていく過程で、いろいろな偶然が重なったり、運命的な出会いがあったりして、とうとう本を書くことを決意する。優れた恋愛小説を書く大崎さんらしい、美しくていねいな情景描写を交えつつ、しだいに日実さん人物像がリアルに浮かび上がってきて、胸に迫ってくるものがあった。僕自身も留学経験もあるし、たったひとり孤独の中で将来の道を模索しながら戦っていた時期があったから、すごく共感できる。
寂しかったのは理解できる。どこかに逃げ道を探していたのかもしれない。孤独に対して人一倍敏感で、だからこそいつも明るくふるまっている女の子。現地の友達ができればいろいろと解決できたことなのかもしれない。
一方で、「サイコパス」として描かれそうになる33歳の千葉も、夢と妄想のはざまで葛藤しながら海外で真摯に生きようとするけれども、だんだん歯車が狂ってきてしまうというのも、僕はある程度理解できるのだ。僕自身、アートを専攻していて、理想と現実とのギャップにどうしようもない苛立ちや絶望を感じることもあった。ただやはり、このルポで描かれている千葉は、どう考えても夢と妄想とをはき違えたダメ人間にしか見えない。もともとこういう人間だったのか、あるいはしたたかに海外で生き延びるために、ルールを無視して他人を利用するクズ人間になっていったのか。
ただ、二人の間には本物の愛があったように思う。それは、海外の孤立した閉鎖空間の中でのみ成立する、歪んだものであったにせよ、ふたりはお互いを尊重しあい、愛し合っていたように思う。それは多分、周囲からの反対があればあるほど、恋愛感情が燃え上がっていったに違いない。
残念なのは、このルポが、筆者が日本を離れてオーストリアとルーマニアへたどり着いた途端、なんだか滑稽な珍道中になってしまっているところ。ちょっともったいないなぁと思った。肝心のところがぼやけてしまってる。
こうなってくると、本当に二人が心中したのかももやもやしてくる。遺書の文章も何か違和感を感じるし。
千葉が死んだあと、日実が後を追ったとは考えられないだろうか?
僕が最初に読んだ書籍版は、日実さんの写真が載ってて、それを見た瞬間に心臓を鷲掴みにされたような感覚があった。
Kindle版には、その写真は載ってなかったね。
このニュースのことを改めてネットで調べてみようとしたけど、当時の2chに少し記述があったくらいで、書籍以上の情報は見つからなかった。
著者のフィルターを通した向こう側にいる2人の本当の姿が、見えそうで見えないのがもどかしい。
by t0maki
| 2017-02-07 22:48
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