Makers’ Baseとの出会いと、15年前の1万円札

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大学を卒業して、ホームレスになりかけながらもようやく写真の仕事に就くことができて喜んだのも束の間、3ヵ月後に無一文になりました。
小切手の支払いが、銀行残高不足で引き落としできず、もうお手上げ状態。次の給料日まで待つしかない。一週間の食費が5ドル(500円くらい)のときもありました。
今でいう、「ワーキングプア」ですね。働けど、働けど…って感じ。
でもまぁ、本人はいたってのんきなもので、初めての仕事だったのでそもそも相場が分からず、現場で学びながら給料もらえるだけで幸せっていう……。

この生まれてはじめての仕事は、職場がロサンゼルスだったのですが、ビザが切れる一年で日本に帰国することに。
その頃には、なんとかお金が少しは貯まったので、住居を引き払ったときにまとめて貸し倉庫につっこんであった学生時代の陶芸作品やら所持品を日本に船便で発送することにしました。陶芸彫刻作品が結構あったので、とても全部は送ることができず、砂漠の湖で片っ端から叩き壊したってのは、また別の話なんですが、まぁ、そんな大変な思いをして、かなり苦労して、ギリギリのところでようやく費用を捻出して作品を日本に送ったわけですよ。

僕が飛行機で帰国した後、一ヶ月くらい経って複数の大きな箱がアメリカから届きました。

で、中を開けて愕然。

陶芸作品は、ほぼ全滅。これでもかってくらい壊れてました。
確かに、梱包は完璧ではなかったかもしれない。美術品を送るような木箱の頑丈梱包とか、とてもじゃないけど費用的にムリ。
でも普通にダンボールの中には詰め物を入れてたし、一つ一つの作品もそれなりに丁寧に包んでたのですが、箱を開けてみたら「二階から地面に叩きつけたのか」ってくらいの壊れ具合。陶芸作品だけじゃなく、現像機もかなりのダメージで使えなくなってたし、なんと画材入れの木箱さえも砕けてた。いくらなんでも普通に運搬してたら、ここまで壊れることはないよなぁ、と。「こんな重い箱を送りやがって、こんにゃろ」って、わざと叩きつけたか、あるいは「ん?怪しい陶器。とりあえず壊しとけ」って破壊されたのかなぁ、なんて。しらんけど。

形あるものはいつか壊れるから、壊れてしまったものは仕方ない。
でも、買ったものならともかく、自分でつくった作品は、もう二度と全く同じものはつくれない。
仕方ないとは分かっていても、切ないなー、と。

全然割りあわないけど、ちょっとだけ、保険金をいただきました。
それが、冒頭の写真のお金。
1999年に受け取ったお金だから、もう15年間もとっておいたことになりますね。
この1万円札は、貨幣価値は1万円だとしても、僕にとっては非常に価値のある大切なお金なんです。
壊れてしまった僕の作品と引き換えにもらったお金。普通の「生活費の足し」とかには、絶対にしたくなかった。

今回、制作機材が集まる工房「Makers' Base」の月額会員登録をした際に、この15年間とっておいたお金を使いました。
今こそ、ここで使うべきだな、と思って。
そして先日、この工房にある陶芸のコーナーで、何年ぶりかに粘土で小さな器をつくりました。大学で専攻していた陶芸を、また再びここでやれるのはホントに幸せ。
そしてこの工房には、陶芸の他にも木工や鉄工に関する機材、レーザーカッターや3Dスキャナー、切削加工機などがホントにたくさんあって、使い方の講習を受講すると自由に使えるようになります。既に僕は、陶芸の他にもレーザーカッターや3D関連のいくつかの講習を習得し、いろいろ作品を制作し始めています。

15年前に失ったものを、いまこの工房で取り戻そうとしているような感じ。
ずっと長い間、こういう工房を手に入れるのが夢でした。このシェア工房に出会うことができて、ホントに幸せ。
当面、「日曜アーティスト」のベース基地はここになりそうです。

というわけで、お金の価値って、額面だけじゃないぞ、と。
by t0maki | 2014-08-29 20:45 | アート | Comments(0)