会社帰り、CON ARTISTに会う

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「あ、ちょっと聞きたいんですけど、ちょっと。」
 白い乗用車の助手席のドアを開けて、スーツ姿の男が声をかけてきた。
 会社の帰り道。人通りのない道で、あたりはもう暗い。
 
「あの、これ受け取ってもらえます?」
 あれ?道を聞くんじゃないのか?と思ったが、差し出された箱を反射的に受け取ってしまった。
「今日展示会だったんですけど、発注を間違えてしまって……。会社に持って帰るのもナンなんで、あげますよ、ソレ」
 箱を開くと、やたらド派手なペアウォッチが。一瞬、「うゎ」と思って返そうとしたら、すかさずスーツ男は別の箱を手にとって、「これも、よかったら奥さんにでも……」薄暗いので良く見えないのだが、やたらいかがわしいネックレスも差し出してきた。
 
 男は、なぜかちょっとけだるそうに、しかし間髪いれずにしゃべりまくる。
「貴金属の卸しをやってる会社なんですよ(ここで名刺をヒラヒラさせ、すぐしまう)。このまま持って帰っちゃうと、上司に怒られちゃうんで、誰かにあげちゃおうかな、と。差し上げますよ、ソレ。」助手席の窓越しで会話をしているので、微妙に相手の顔が見えない。僕はやたらとケバイ腕時計とネックレスを手にしたまま、くれるって言うならもらっちゃおうかな、と思いかけたその時……。
「で、仕事も終わったしこれから飲みに行こうと思ってるんですけど……、その、飲み代をちょっと。いくらかでいいんですけど、いただけませんか?」

「来たー」と思いましたね。
 典型的なだましのテクニック。英語で言う、CON ARTIST(詐欺師)ですよ。
 『だまされそうになった』というよりは、『いいもの見せてもらったな』というちょっとした感動すらありました。なんかこう、道端でストリートライブに聴き入ったとか、大道芸に感心させられたとか、そんな感じ。
 
「あ、いや。あの、オレ時計とかしないんで……」とか言って返してしまったけど、今考えたら数千円でもいいから渡して、その時計とネックレスをもらっておけば良かったかな、とも思います。
 そしたら、後日談として質屋に持ってって、鑑定士のオヤジに「きみー、これ偽モノだよ。どこで手に入れたの?」とか言われて警察に通報されて、刑事さんから「で、どんな車に乗ってたか覚えてる?」「白い車でした」「どの車種か分かる?」「えー、……白い車でした」みたいな話のネタができたかもしれないのにと思うと、ちょっと残念です。
by t0maki | 2005-06-16 23:59 | 乱文・雑文 | Comments(0)