「Pyramid Lake」に自転車で行こうとして死にかけたハナシ

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「Pyramid Lake」について、なんか最近シリーズっぽく訥々と思いつくまま書き綴ってますが、今回も思い出話をもう一つ。

以前ちらっと書いたけど、「Pyramid Lake」に自転車で行こうとして死にかけたハナシ。

学生時代、砂漠の真ん中にある「Pyramid Lake」という湖が僕のお気に入りの場所でした。何度も車では行ったことがあったのですが、その日はなぜか自転車で行ってみることに。
すぐ帰る予定で、まぁとりあえず途中まででも良いからちょっとした運動がてら向かってみて、たどり着いてもたどり着けなくても午後になったら引き返して、一日サイクリングを楽しもうではないか、と。

そこは、ホントに砂漠の真ん中の湖なんですよ。途中まではポツポツと民家もあるのですが、途中から全く人気のない景色が延々と続きます。砂漠の一本道のハイウェイ。まばらな車が途切れると、見渡す限り地平線の中に生きている人間は自分しかいないなんていうことも。

快調に進んでいたのですが、往き道で突然自転車がパンクしました。
自宅でパンクを直すときは、バケツに水を入れてタイヤのチューブを突っ込んで、穴の開いた箇所を探すのですが、さすがに砂漠の真ん中ではそれができない。3リットルくらいの飲料水は積んでましたが、砂漠を横切るのには水を無駄にするわけにはいかないですからね。
で、いつも常備している石けんと、少量の水をタオルに含ませ、タイヤのチューブをこすりながら穴の開いた箇所を探します。空気が抜けている箇所はブクブクと泡が出てくるのでパンクの位置が分かるっていう、砂漠の自転車乗り必携の智慧。ほどなく穴は見つかって、ゴムのパッチを貼り付け、パンク修理は完了、と。念のため、30分ほど接着剤が乾くまでその場で待機。パンク修理自体は別にどうってことはない。乾燥しているせいか、結構な頻度でいつも自転車がパンクするので。

道ばたでぼうっとしていると、ピックアップトラックのおじさんがわざわざ車を停めて「大丈夫かね?」なんて聞いてくれたけど、僕は「うん、問題ないよ」と。

冒頭の写真は、そのパンク中に撮った写真。この記事内でも紹介した骨董カメラで撮りました。画像がぼけてるのはカメラが古いせいではなく、単に僕が焦点を合わせるのに失敗しただけです……。

携帯用の空気入れでタイヤを膨らまし、パンクが直っているのを確認し、ここでふと僕は「このまま先に進むべきか」それとも「そろそろ引き返すべきか」と一瞬迷いました。30分の休憩で体力も回復してたし、まだまだ日も高いので、「もう少し先へ進んでみるか」と決めましたが、ホントはそこで引き返すべきでした。若さゆえの楽観的な無鉄砲さがあだとなり、僕は正しい判断を誤ったのです。

照りつける太陽。風を受けながら自転車で走っているので、体から発する汗は、瞬時に蒸発して塩の結晶になります。3リットルあった飲料水も、あっという間に減っていきました。
よし、あの地平線までと思ってこぎ続けると、またその先に道が続いていきます。どんどんこぎ続けるうちに、僕は脳内エンドルフィンの放出によってハイな気分になり、何かこう自然や風景と一体化しているような、ある種荘厳で神秘的な気分になり、気がつくといつの間にか引き返すタイミングを完全に失っていました。

ようやく「Pyramid Lake」にたどり着いた時は、もう日もだいぶ傾いて来た頃で、目的地に着いた充足感に浸る間もなく、すぐに引き返すことにしました。

ここで、冷静に考えればどんなバカでも思いつくことなのですが、普通「湖」っていうのは標高の低いところにできるもの。つまり、湖に向かって自転車を走らせたら、行きは下り坂だけど、帰りは上り坂だっていうことを、その時自分は計算に入れていなかった。全体的に起伏のある行程なのと、あまりにもなだらかなくだり坂なので、自転車を漕いでいる自分は気がつかなかった、と。

引き返し初めてすぐに、「しまった!」と気がつきましたが、もう時すでに遅し。往き道のハイな気分とは全く逆の、辛く長い帰り道でした。すっかり暗くなったハイウェイで、100キロを超すスピードで通り抜ける車に注意しながら、ようやく家にたどり着いたのはかなり夜も更けた頃。3リットルの飲み水はもうとっくに無くなっていました。

家のドアを開けてリビングをのぞき込んだら、ルームメイトたちがテレビゲームに興じていました。
「あ、おかえりー」
「うん、ただいま」
「どこ行ってたの?」
「え?あ、Pyramid Lakeに、……自転車で」
「うっそ、遠くなかった?」
「うん、遠かった」
短い会話を交わしつつ、疲れ切った体を横たえるために、僕は自室に向かいました。
「きっと僕が死んでも、こんな風に世界は回り続けるんだ」なんてことを考えながら。
by t0maki | 2011-02-28 02:11 | 乱文・雑文 | Comments(0)