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夏の終わりの、恐怖体験
 案内された席に着くと、既に水の入ったコップが用意されていた。室内には、落ち着いた感じのクラシック音楽。先ほど席を案内してくれた若い女性が、「失礼します」と言って、服が汚れないように紙製のエプロンを付けてくれた。
 「今日はどんなメニューだろう?」
 手を伸ばせば届く所に、銀色のトレーに載せられた道具が並んでいる。
 既に、他の席では皆が思い思いの格好で口を開けつつ、それぞれのサービスを楽しんでいる。
 
 「お待たせしました」
 落ち着いた雰囲気の比較的若い男が、かしこまった様子で私の席の隣に立った。
 「本日担当させていただきます、S井と申します。こちらは本日初めてでしょうか?」
 「いえ、数年前にも一度来た事があります」
 「そうでしたか。では、早速……」
 
 そう言うと、S井はいきなり私の口の中に手を突っ込み、中を覗き込んで来た。と、同時にハイピッチのノイズが頭の中を駆け巡り、軽い疼痛と振動が脳みそを刺激し、何かの液体が口の中に溢れるのを感じた。強烈な閃光を顔面に当てられ、目を開けていられない。クラシック音楽は遠のき、不安と恐怖のために私は全身の筋肉を硬直させた。
 S井の助手と思われる若い女性は、そんな私の様子を全く感情の無い目で見つめている。
 
 口の中に巨大なプラスチックと粘着質の物体を押し込まれ、しばらく私はその場に放置された。
 私は脱力した格好で椅子に体を凭れさせ、遠くから差し込む光をぼんやりと眺めていた。
 
 「それでは、一週間後に詰めますので、また来週いらしてください」
 「はい、ありがとうございます」
 そう言いながら椅子から立ち上がり、私はその場を後にした。
 
 次回の歯医者の予約は、9月8日。

by t0maki | 2007-09-01 21:15 | 乱文・雑文 | Comments(0)

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