「Pyramid Lake」で陶芸彫刻作品を叩き壊したこと

ネバダ州の砂漠の真ん中にある「Pyramid Lake」という湖が、僕の大学時代からお気に入りの場所でした。心を落ち着けたいときとか、考え事をしたいとき、ただなんとなく一人になりたいときなどに、よく車を飛ばして訪れていました。
ネイティブアメリカンの伝説があったり、信じられないくらい荘厳な星空を見ることができたり、とても神秘的な場所です。

今で言う、「パワースポット」みたいな感じですかね。自分にとっては。


いろんな思い出があるのですが、とりあえず今日はそのうちの一つだけ。

1999年3月末頃、アメリカで『マトリックス』が公開される前日、僕は1年ぶりにPyramid Lakeを訪れていました。自分が学生時代に制作した陶芸彫刻作品を「叩き壊す」ために。

学生時代、僕はネバダ州の大学で陶芸彫刻を専攻し、アートを学んでいました。留学した当初はアートと全く関係ない学部にいたのですが、例によって、のめり込むと歯止めがきかない僕の性格が禍いして、一度アートのクラスを受講してからはその創作活動の面白さにどっぷりと浸かってしまい、次々とデッサン、油絵、写真、現代彫刻とクラスをとり続けていたら、いつの間にかアート学部に転部しないと卒業できないような状態に。
アート学部の中でも、陶芸彫刻学科を選んだのは、土と水という単純な素材を空気と火で加工することによって作品をつくるという、原始的ながら奥が深い創作分野を学んでいくのがすごく面白くて興味があったから。造形だけでなく、当時僕がハマったのは釉薬の研究。ちょっとした土の調合の割合で質感ががらりと変わったり、金属化合物の微妙な量、あるいは焼成中の空気や火力で仕上がる作品が全く変わってしまうという。
窯を開ける瞬間は、いつもクリスマスのプレゼントを開けるような気分なのです(ってこの表現は、陶芸彫刻の担当教授の受け売りですが……まさにそんな感じ)。

自分が好んで使っていた釉薬は、焼成中にガスを発生し、表面がボコボコに錆びたような質感を出すもの。いろんな釉薬の調合を実験していく過程で、自分が見つけたオリジナルの釉薬です。まるで金属が経年劣化して錆びてぼろぼろになったようなテクスチャーになります。

在学中はホントに山ほど作品を作りました。ろくろを使って一晩で100個の作品を制作したことも。卒業して、ロサンゼルスで一年働いている間は、倉庫を借りて全部その中に保管していたのですが、入りきらない分は知り合いに預かってもらったりもしました。

で、日本に帰国する際に再度ネバダに立ち寄り、日本に空輸できそうな作品は片っ端から送ったのですが、限られた手持ちの金では送ることのできない作品はすべて捨てなければならなくなり、どうせ捨てるなら、全部自分の手で叩き壊してしまおう、と。

あの頃自分は、いろいろあってかなり苛立っていました。学生というある種守られた立場から一転、社会人となって異国の地で都会の荒波にもまれ、今まで信じていたものがどんどん崩れていき、時として夢でさえ重荷に感じてしまうような。頑張れば頑張るほど、良いように利用されてしまう社会の仕組みに納得がいかず、かといって報われないと分かっていても努力を続けるしかないという……。
今から考えると、良い意味でも悪い意味でも、「あの頃僕は若かった」と。

砂漠の湖で、次々と自分の作品を叩き壊した後は、なんだかちょっとだけすっきりしました。「日本に帰って、また一から頑張るぞ」、と。

で、日本に帰国してから、地元のプロバイダで働きながらパソコンやITについて学んだ後、WEBデザイナーとして東京に出てきてからもう10年になります。肩書きはプロデューサなので、もう現場で制作はしていませんが、いまだに週末は「日曜アーティスト」を名乗って、好きな創作活動をコツコツと続けています。「死ぬまで作り続ける」っていうのが僕の夢であり、究極の目標です。

今回、学生時代に自分が作った陶芸彫刻作品の画像を使ってiPhone/iPodの壁紙を作っていたら、なんとなく懐かしくなって、こんなブログエントリーを書いてみました。

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学生時代、人形の顔や、ネジなど、身の回りのオブジェクトを石膏で型を取り、陶芸粘土で成形してこんな作品を作っていました。釉薬も前述のように、オリジナルの調合を開発したり。なんかちょっとグロテスクですが、一応賞なども受賞しました。実はその賞をもらってなかったら(そして賞金の500ドルがなかったら)、今ここに僕はいなかったかも、というのはまた別の話……。

この写真は、当時使っていたSX-70というポラロイドカメラで撮影したもの。スキャナーで取り込んで、しばらくZIPディスクに保管していた画像ファイルを、今回壁紙の素材として使いました。フォトショップで色調など調整していますが、写真自体はオリジナルのまま。

今日はそんな感じで。
by t0maki | 2011-02-20 17:28 | 乱文・雑文 | Comments(0)